長引くコロナ禍や、ウクライナ情勢に伴う原油高による物価高など、先行き不透明な社会・経済環境にあって、卸売業者も引き続き厳しい経営状況に直面しています。
この記事では、卸売業が活用できる補助金や助成金を5つ選定し、詳しく解説します。
補助金と助成金の違い
まず、補助金と助成金の違いについて解説します。
補助金は、返済不要の給付金制度で、それぞれの募集期間内に応募して採択されれば受給できます。ただし、期間内に応募しても、予算枠により審査を通らない場合も多くあります。採択率は補助金や申請枠によって異なりますが、概ね40%~50%程度と言われています。
補助金は主に経済産業省や地方自治体が主管し、財源は税金で、設備投資関連の補助金が中心となります。
助成金も補助金と同じく返済不要の給付金制度ですが、補助金と異なり、一定の条件を満たせばほぼ受給できます。このため、採択率という概念はありません。
助成金は主に厚生労働省や地方自治体が主管し、雇用保険料が財源となります。雇用関係や研究開発関連の助成金が中心となっています。
卸売業で使える補助金・助成金
卸売業者が活用できる、主な補助金と助成金について下記に解説します。
事業再構築補助金
事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援する補助金制度です。
本事業は6つの申請類型で構成されています。各類型の概要、補助金額、補助率は、以下のとおりです
①通常枠
概要 | 新分野展開や業態転換、事業・業種転換等の取組、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等を目指す中小企業等の新たな挑戦を支援。 |
補助金額 | 【従業員数 20人以下】 100万円~2,000万円 【従業員数 21~50人】 100万円~4,000万円 【従業員数 51~100人】 100万円~6,000万円 【従業員数 101 人以上】 100万円~8,000万円 |
補助率 | 中小企業者等 2/3(6,000万円を超える部分は 1/2(※)) 中堅企業等 1/2(4,000万円超を超える部分は 1/3(※)) (※)補助金額によって補助率が異なりますのでご注意ください。 |
②大規模賃金引上枠
概要 | 多くの従業員を雇用しながら、継続的な賃金引上げに取り組むとともに、従業員を増やして生産性を向上させる中小企業等の事業再構築を支援。 |
補助金額 | 【従業員数 101人以上】8,000万円超~1億円 |
補助率 | 中小企業者等 2/3(6,000万円を超える部分は 1/2) 中堅企業等 1/2(4,000万円を超える部分は 1/3) |
③回復・再生応援枠
概要 | 新型コロナウイルスの影響を受け、引き続き業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む中小企業等の事業再構築を支援。 |
補助金額 | 【従業員数 5人以下】 100万円~500万円 【従業員数 6~20人】 100万円~1,000万円 【従業員数 21人以上】 100万円~1,500万円 |
補助率 | 中小企業者等 3/4 中堅企業等 2/3 |
④最低賃金枠
概要 | 最低賃金引上げの影響を受け、その原資の確保が困難な特に業況の厳しい中小企業等の事業再構築を支援。 |
補助金額 | 【従業員数 5人以下】 100万円~500万円 【従業員数 6~20人】 100万円~1,000万円 【従業員数 21人以上】 100万円~1,500万円 |
補助率 | 中小企業者等 3/4 中堅企業等 2/3 |
⑤グリーン成長枠
概要 | 研究開発・技術開発又は人材育成を行いながら、グリーン成長戦略「実行計画」14分野の課題の解決に資する取組を行う中小企業等の事業再構築を支援。 |
補助金額 | 中小企業等 100万円~1億円 中堅企業等 100万円~1.5億円 |
補助率 | 中小企業者等 1/2 中堅企業等 1/3 |
⑥原油価格・物価高騰等緊急対策枠(緊急対策枠)
概要 | 原油価格・物価高騰等の、予期せぬ経済環境の変化の影響を受けている中小企業等の事業再構築を支援。 |
補助金額 | 【従業員数 5人以下】 100万円~1,000万円 【従業員数 6~20人】 100万円~2,000万円 【従業員数 21~50人】 100万円~3,000万円 【従業員 51人~】 100万円~4,000万円 |
補助率 | 中小企業者等 3/4(※1) 中堅企業等 2/3(※2) (※1)従業員数 5人以下の場合 500万円を超える部分、従業員数6~20人の場合1,000万円を超える部分、従業員数21人以上の場合 1,500万円を超える部分は2/3) (※2)従業員数5人以下の場合500万円を超える部分、従業員数6~20人の場合1,000万円を超える部分、従業員数21人以上の場合 1,500万円を超える部分は1/2) |
参照:事業再構築補助金公式HP
ものづくり補助金
ものづくり補助金(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は、中小企業・小規模事業者等が今後、複数年にわたって相次いで直面する制度変更(働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入)などに対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資を支援するものです。
本事業は、5つの申請類型で構成されています。各類型の概要、補助率、補助金額は、以下のとおりです。
①通常枠
概要 | 革新的な製品・サービス開発又は生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資等を支援 |
補助金額 | 従業員数5人以下 :100万円~750万円 6人~20人:100万円~1,000万円 21人以上 :100万円~1,250万円 |
補助率 |
1/2、小規模企業者・小規模事業者2/3 |
②回復型賃上げ・雇用拡大枠
概要 | 業況が厳しいながら賃上げ・雇用拡大に取り組む事業者(※)が行う、革新的な製品・サービス開発又は生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資等を支援 ※応募締切時点の前年度の事業年度の課税所得がゼロ以下であり、常時使用する従業員がいる事業者に限る。 |
補助金額 | 従業員数5人以下:100万円~750万円 6人~20人:100万円~1,000万円 21人以上 :100万円~1,250万円 |
補助率 |
2/3 |
③デジタル枠
概要 | DX(デジタルトランスフォーメーション)に資する革新的な製品・サービス開発又はデジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資等を支援 |
補助金額 | 従業員数 5人以下 :100万円~750万円 6人~10人:100万円~1,000万円 21人以上 :100万円~1,250万円 |
補助率 |
2/3 |
④グリーン枠
概要 | 温室効果ガスの排出削減に資する取組に応じ、温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービス開発又は炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資等を支援 |
補助金額 | (エントリー類型) 従業員数5人以下:100万円~750万円 6人~20人:100万円~1,000万円 21人以上: 100万円~1,250万円 (スタンダード類型) 従業員数 5人以下:750万円~1,000万円 6人~20人:1,000万円~1,500万円 21人以上:1,250万円~2,000万円 (アドバンス類型) 従業員数5人以下:1,000万円~2,000万円 6人~20人:1,500万円~3,000万円 21人以上:2,000万円~4,000万円 |
補助率 |
2/3 |
⑤グローバル市場開拓枠
概要 | 海外事業の拡大・強化等を目的とした「製品・サービス開発」又は「生産プロセス・サービス提供方法の改善」に必要な設備・システム投資等を支援(①海外直接投資類型、②海外市場開拓(JAPAN ブランド)類型、③インバウンド市場開拓類型、④海外事業者との共同事業類型のいずれかに合致するもの) |
補助金額 | 100万円~3,000万円 |
補助率 |
1/2、小規模企業者・小規模事業者 2/3 |
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等がITツール導入に活用できる補助金です。
本事業は4つの申請類型で構成されています。各類型の概要、補助上限額・下限額金額、補助率は以下のとおりです。
①通常枠(A・B類型)
概要 | 中小企業・小規模事業者等が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、業務効率化・売上アップをサポートするものです。 |
補助上限額・下限額 | A類型:30万円~150万円未満 B類型:150万円~450万円以下 |
補助率 |
1/2以内 |
②-1. デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)
概要 | 中小企業・小規模事業者等が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、業務効率化・売上アップをサポートするものです。 |
補助上限額・下限額 |
5万円※~350万円 |
補助率 |
3/4以内または2/3以内 |
②-2. デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)ハードウェア購入費用
PC・タブレット・プリンター・スキャナー及びそれらの複合機器 | |
補助上限額 | 10万円 |
補助率 |
1/2以内 |
レジ・券売機等 | |
補助上限額 |
20万円 |
補助率 |
1/2以内 |
③セキュリティ対策推進枠
概要 |
中小企業・小規模事業者等がサイバーインシデントが原因で事業継続が困難となる事態を回避するとともに、サイバー攻撃被害が供給制約や価格高騰を潜在的に引き起こすリスクや生産性向上を阻害するリスクを低減していただく事を目的としています。 |
補助上限額・下限額 | 5万~100万円 |
補助率 |
1/2以内 |
このほか、「デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)」がありますが、複数社連携しての申請が必須となるため、本記事では説明を割愛します。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、持続的な経営に向けた経営計画に基づく、小規模事業者等の地道な販路開拓等の取り組みや、業務効率化の取り組みを支援するため、それに要する経費の一部を補助するものです。
機械装置費用などのほか、ウェブサイト関連費用や展示会の出店費、店舗改装などの外注費など、販路開拓に関するさまざまな費用が対象となります。
本事業を構成する5つの申請類型の補助上限や補助率は、次のとおりです。
なお、インボイス特例対象事業者には、記載した金額に 50 万円の上乗せが行われます。
①通常枠
補助上限 | 50万円 |
補助率 |
2/3 |
②賃金引上げ枠
概要 | 最低賃金の引き上げが行われた中、それに加えて更なる賃上げを行い、従業員に成長の果実を分配する意欲的な小規模事業者に対し政策支援をするため、補助事業実施期間に事業場内最低賃金を地域別最低賃金より+30円以上とした事業者に対し て、補助上限額を200万円へ引き上げ。 |
補助上限 | 200万円 |
補助率 |
2/3(赤字事業者については3/4) |
③卒業枠
概要 | 更なる事業規模拡大に意欲的な小規模事業者に対し政策支援をするため、補助事業実施期間中に常時使用する従業員を増やし、小規模事業者として定義する従業員の枠を超え事業規模を拡大する事業者に対して、補助上限額を200万円へ引き上げ。 |
補助上限 | 200万円 |
補助率 |
2/3 |
④後継者支援枠
概要 | 将来的に事業承継を行う予定があり、新たな取組を行う後継者候補として、「アトツギ甲子園」のファイナリストになった事業者を対象に政策支援をするため、要件を満たす事業者に対して、補助上限額を200万円へ引き上げ。 |
補助上限 | 200万円 |
補助率 |
2/3 |
⑤創業枠
概要 | 創業した事業者を重点的に政策支援するため、産業競争力強化法に基づく「認定市区町村」または「認定市区町村」と連携した「認定連携創業支援等事業者」が実施した「特定創業支援等事業」による支援を公募締切時から起算して過去3か年の間に受け、かつ、過去3か年の間に開業した事業者に対して、補助上限額を200万円へ引き上げ。 |
補助上限 | 200万円 |
補助率 |
2/3 |
業務改善助成金
業務改善助成金は、「事業場(※)内で最も低い賃金」を一定額以上引き上げるとともに、生産性向上につながる設備投資(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)などを行った場合に、その費用の一部を助成するものです。
※事業場の適用範囲は、原則として「同じ場所にあれば一つの事業場」とみなされますが、労働状態が違う場合には別々の事業場となります。例えば、工場で生産にあたる労働者と工場内の食堂で食事を作る労働者は業態がそれぞれ全く異なるため、別々の事業場とみなされます。
本助成金の公募ページには、「POSレジシステム導入による在庫管理の短縮」が活用事例として記載されています。
助成額
事業場内での最低賃金を、30円、45円、60円、90円といったコース区分ごとに定められた金額以上引き上げた場合、生産性向上のための設備投資に要した費用の一部が助成されます。
なお、事業場内最低賃金の引き上げ額や引き上げる労働者数ごとに助成の上限額が定められています。
詳しい要件・上限額等については、下記参照ページにてご確認ください。
参照:厚生労働省 [2]業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援
まとめ
卸売業者が活用できる、主な補助金と助成金について解説しました。
この記事で紹介した補助金・助成金を、ぜひ、自社の業務改善や売上の維持・拡大にお役立てください。